新潟大学脳研究所 脳神経外科教室

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当教室での取り組み -教室のご紹介-

当教室での取り組み

1.オートファジーに注目した悪性脳腫瘍に対する治療法の展開

細胞内の代謝機構を研究することで、悪性脳腫瘍の新しい治療法を探る。

オートファジー(Autophagy)は広く真核生物の細胞内でおこるタンパク質の代謝機構一つです。栄養飢餓に陥った細胞に顕著に誘導されることが知られ、ミトコンドリアのような細胞内小器官も分解してしまうことが分かっています。ユビキチン−プロテアソーム系が選択的なタンパク質の代謝機構であることに対比すると、オートファジーはよりダイナミックな機構であるといえます。語源からもauto=自、phagy=食ということで、自食作用と考えるとわかりやすく、細胞内でのタンパク質のリサイクルシステムと形容されることもあります。
オートファジーの研究は近年飛躍的に進んでいますが、それに伴い癌・神経変性疾患・感染症などの疾患と関連づけて研究が進められるようになってきました。発がんやがん治療におけるオートファジーの役割が注目されており、癌学会(2009,2010年)でもシンポジウムとしてとりあげられています。
私たちはこれまでに悪性脳腫瘍(グリオーマ)細胞において抗がん剤、放射線治療、ウィルス治療などによりオートファジーが誘導されることを明らかにしてきました。写真下段で、細胞質内で泡沫状に輝いて見えているのがこの現象です。その役割は大きく分けると2つ考えられ、(1)autophagic cell death: オートファジーによって細胞が死ぬこと、(2)protective autophagy: オートファジーによって細胞が守られること、が挙げられます。このメカニズムの解明が、がん治療における新たな治療戦略に結びつくと期待されており、私たちもその研究に取り組んでいます。

2.MGMT活性を活用した悪性脳腫瘍に関する研究

悪性脳腫瘍の最新治療薬の作用機序を解明することで、今後のさらなる治療の発展に貢献する。

神経膠腫の新薬としてテモゾロミド(テモダールR)という経口化学療法剤がここ数年本邦でもトピックとなっています。特にその組織内においてMGMT(メチルグアニン・メチル転移酵素)という酵素の発現が少ないものに本薬剤の効果が高いことが報告されており、手術で摘出した腫瘍組織に免疫染色を行ったり、特殊なPCRを用いて解析することで、このMGMTの発現の程度を調べることができます。
私たちは、脳研究所神経病理学部門と協力してこのMGMT活性の評価と臨床学的意義を検討しており、さらにこのメカニズムを研究することで、将来さらに新たな治療法への発展へと結びつくものと考えております。

3.フラビン蛍光イメージングを用いたてんかん発作発生機序の解明

てんかん発作はなぜ起こるか? 神経活動に伴う内因性の信号を光イメージングで捉える。

てんかんでは、ある部分の神経細胞が過剰興奮し、大脳の中で周囲を巻き込んで行くことで発作としての臨床症状を発します.そのような現象を引き起こす原因疾患として、脳腫瘍、海馬硬化、皮質形成異常、結節性硬化症など様々なものがあります。てんかん発作のメカニズムに関しては多くの基礎研究がなされ、様々なことが解明されて来ましたが、正常な脳組織がどうしててんかんを起こすようになってしまうのか、という基本的な原因に関してはいまだに明らかとはなっていないのが実情です。
わたしたちは、手術によりてんかん原性病変や神経細胞を含んだ脳腫瘍を実際に摘出する立場を生かし、摘出した直後の生きた標本を応用した研究を行っています。脳研究所システム脳生理学教室で開発したフラビン蛍光イメージング(注)という手法を用い標本の様々な反応を観察することで、てんかん原性の謎に迫ろうとしています。現在のところ、てんかん発作を起こした病変と起こしていない病変での興奮の広がり方の違いを本方法で示すことに成功しました。
なお本研究は、私たちと脳研究所のシステム脳生理学教室・神経病理学教室との共同研究として行っています。

(注)フラビン蛍光イメージングでは、神経細胞の活動により変化する自家蛍光シグナルを利用して脳のスライス上の興奮部位を可視化することが可能です。

4.ラット脳幹グリオーマモデルに対するCED(convection-enhanced delivery)法の効果に関する研究

治療困難な脳幹部グリオーマに対する新しい治療法の確立を目指して

病変が脳幹部という生命中枢に存在し、かつびまん性の浸潤発育を示す脳幹部グリオーマは、摘出術による根治は望めず、脳神経外科領域では予後不良疾患として知られます。放射線治療と大量化学療法を中心に様々な試みが行われていますが、いまだ画期的な効果は得られていません。好発年齢が小学校低学年であることもあり、患児とそのご家族はもちろん、私たちにとっても新たな治療法の開発が切に望まれています。
Convection-enhanced delivery(CED)法というのは、がん化学療法で近年用いられている抗癌剤の投与法の一つで、小型ポンプと極細カテーテルで長時間かけて薬剤を病変部に持続注入する方法です。一般の投与法では薬剤が到達しにくい脳深部には有効な方法と考えられ、現在ラットを中心に研究応用されています。研究ではラット脳幹グリオーマモデルを作成し、CED法を用いて脳幹部に抗癌剤(現在はテモゾロマイド)を直接注入、その抗腫瘍効果と神経毒性を調べています。これまでに、テモゾロマイド少容量の持続注入は可能であることが示され、ラットモデルでは神経毒性もなく生存期間の延長も認めました。
今後は、高容量の注入を可能とする改良、放射線や他剤との組み合わせ、さらに高等動物での実験などを経て、最終的にヒトの治療に役立てたいと考えています。なお、本研究は米国Johns Hopkins大学脳神経外科との共同研究であり、人材交流を行って研究を進めております。

5.先進的3次元工学を利用した脳神経外科手術シミュレーション/トレーニングシステムの開発

全ての手術の安全性・精度の向上と、次世代脳外科医に向けた教育・訓練システムの完成を目指して。

脳神経外科手術が複雑な解剖の知識と熟練した技術を要することは言うまでもありません。この安全性と精度を高め、若手脳神経外科医の技術ステップアップも実現するために、私たちは最新の3次元工学を応用した視覚型・体感型シミュレーションシステムの開発に取り組んでいます。
私たちは今まで、3次元画像解析ソフト(Real INTAGE:KGT Inc.)による視覚的な術前画像シミュレーションの活用を報告して来ました。これは様々な神経画像データから引き出した情報(CTから骨、造影CTや血管撮影から動脈や静脈、 MRIから脳/神経や腫瘍など)を統合して一つの3次元データを作成し、画像上での模擬開頭や各段階の予測術野を作成するものでした。

この手法を発展させ、3次元画像データと特殊な操作ツールを対応させることで、手に立体感覚を感じながら開頭したり、脳を圧迫したり、腫瘍を摘出したりといった操作を行えるようになりました。画像解析ソフト(Zed-View:LEXI Inc.)と3次元加工ソフト(FreeForm:DICO Inc.)で実現しています。作成したデータをさらに3次元カラープリント (Z Printer:DICO Inc.)することで、リアルな3次元カラーモデルを作成し、実際の道具で模擬手術も行えるようになりました。
本研究は、患者さんの手術一つ一つを大切にし、その成功へ向けて最大限の努力をする考え方を基盤にしており、向上した手術技量や知識はさらに次の患者さんへとフィードバックされて行きます。

6.Multi-parametric MRIを用いた虚血性脳血管障害の病態解析

Multi-parametric MRIによるラット中大脳動脈閉塞モデルを用いた虚血性脳浮腫の病態解析

虚血性脳血管障害に対する脳組織保護療法の研究は精力的に進められており、実験レベルでは種々の知見・発見が日々なされている。しかし、それら実験レベルでの知見と臨床応用とのギャップは大きく、未だ応用が進んでいないのが現状である。
我々は、一個体の病態変化の推移を観察するという一般臨床に行われている手段が、実験レベルでは行い難いということが、現在の実験レベルでの知見と臨床応用とのギャップの原因の一つであるという認識のもと、統合脳機能研究センターとの共同研究にて、MRを用いた虚血性脳血管障害の病態解析を進めている。
本研究では、
 1.一個体の病態を非侵襲かつ経時的に追跡できる
 2.拡散係数(ADC)や脳血液量(CBV)などの脳循環・代謝パラメーターが同一部位で観測できる

というMRの特性を生かし、ラット中大脳動脈閉塞モデルを用い、脳浮腫の空間的な広がりの経時的変化をもとに、Multi-parametric MRIを用いた研究を行っている。

図1.7T動物実験用MRシステム

図2.中大脳動脈閉塞2時間後のラットのMR画像。(左)拡散強調画像、(中)ADCマップ、(右)CBVマップ。虚血部位でADC、CBVが低下していることが分かる。

7.近赤外分光法用いた術前機能評価, てんかん焦点の病態解析

近赤外分光法と和田テストを用いた術前神経膠腫患者における運動・感覚言語機能評価

脳神経外科領域で、優位半球(運動・感覚言語機能局在)を同定するゴールドスタンダードは現時点では和田テストである。神経膠腫術前患者において運動・感覚言語機能局在同定に近赤外分光法(near-infrared spectroscopy: NIRS)を用いて評価し、また和田テストの結果との相関を求め、左右分離性の機能局在の1例を除き和田テストと完全に一致した。本手法は和田テストやfMRIの代替になり得る、臨床的に極めて有効な言語機能評価法であることがわかりました。今後、近赤外分光法を用いててんかん焦点の病態解析へ応用も進めて行く予定である。

患者1
左側頭葉の神経膠芽腫の症例。Broca野の同定する言語タスクを行うと左半球のBroca野で総ヘモグロビン濃度変化が出現(中段、左)。
Wernicke野の同定する言語タスクを行うと左半球のWernicke野で総ヘモグロビン濃度変化が出現(下段、左)。

患者10
右上側頭回から縁上回、Wernicke野と想定される角回に造影病変が存在する神生理恵経膠芽腫の症例。
Broca野の同定する言語タスクを行うと左半球のBroca野で総ヘモグロビン濃度変化が出現(中段、右)。
Wernicke野の同定する言語タスクを行うと右半球のWernicke野で総ヘモグロビン濃度変化が出現(下段、左)。