新潟大学脳研究所 脳神経外科教室

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疾患と治療について -一般の方へ-

私たちの治療に関する考え方

私たちが新潟大学医歯学総合病院において診療に当たっている代表的疾患群と一般的な治療法を、私たちの治療に関する考え方や得意とする治療法も交えながら、ご紹介いたします。

全ての脳疾患の診療において私たちは、診断から治療適応の検討から、実際の手術治療、術後の後療法や経過の追跡まで、患者さんごとに全て一貫した考え方のもとに診療を行わなくては最善の結果を得ることはできないと考えております。最先端画像診断技術、独自の術前シミュレーションシステムによるトレーニング、高レベルの術中神経モニタリングや術中支援機器の利用、そして新潟大学医歯学総合病院の他部門や関連病院との協力体制の構築は、全てがこのような理念のもとに進められています。

  1. 脳腫瘍について
  2. 間脳・下垂体部腫瘍について
  3. 頭蓋底部腫瘍について
  4. 脳血管障害について
  5. 脊髄・脊椎疾患について
  6. 小児神経外科疾患(水頭症・先天性疾患)について
  7. 機能性疾患について

1. 脳腫瘍について

最新知識と最先端技術を余すところなく活用した治療方針

神経膠腫など脳そのものに発生する脳実質内腫瘍は、脳神経外科における中心的な診療疾患の一つです。私たちは長い診療の歴史と豊富な症例経験をもとに、患者さんごとに適切な診断と治療を提供できますよう診療に取り組んでいます。

脳腫瘍の画像診断には、最新鋭の機器を利用した神経画像 (CT、MRI、血管撮影)により診断技術を高めています。手術に際しては、ナビゲーションシステムや術中CT撮像システムなどの最先端支援技術を利用して積極的な腫瘍摘出を行った上で、運動野や言語野が近い場合には大脳刺激筋電図モニタリングや生理学的な脳機能マッピングを併用して機能温存も目指しています。多くの脳腫瘍では術後に後療法が必要となりますが、私たちは神経膠腫の新しい治療薬(テモダール)の使用経験も豊富に有し、摘出組織の遺伝子解析による治療効果の予測にも積極的に取り組んでいます。また、高齢者では放射線治療が問題となりますが、私たちは独自の照射法で入院期間の短縮と生活の質の維持を達成しています。化学療法と放射線療法の組み合わせが治療の中心となる悪性リンパ腫でも、私たちの方法は十分な効果と副作用の軽減を両立しています。転移性腫瘍では定位放射線治療が有効で、関連病院とともにガンマナイフ(北日本脳外科病院)やノバリス(県立がんセンター)などの機器を使った治療をしています。脳腫瘍は小児患者さんでも多い腫瘍性疾患の一つです。脳幹グリオーマや髄芽腫における私たちの治療経験は国内でも多く、特に髄芽腫の治療成績は世界的にも高いレベルにあります。最も治療困難な脳幹グリオーマについても、私たちは独自の分類に基づいた治療指針で、治療成績の向上に努めています。

脳腫瘍の診療にもっとも重要な病理診断に関しては、脳腫瘍を専門とする新潟大学脳研究所神経病理部門で行っております。つまり、高い専門性に裏打ちされた治療を行うことができる環境のもと診療を行うことができるということです。

2. 間脳・下垂体部腫瘍について

内分泌を考慮したきめ細かな周術期治療

生体そのものに関わるホルモン分泌を担う間脳・下垂体領域には、下垂体腺腫をはじめ、胚細胞腫瘍頭蓋咽頭腫といった腫瘍が発生します。組織も良性から悪性まで幅広く、臨床症状もホルモン関連症状、視覚経路の圧迫症状、髄液循環不全による水頭症、生体維持に関わる視床下部症状など多彩です。下垂体腺腫以外の腫瘍は小児期の発生も多く、治療に伴ったホルモン分泌低下は発育障害にも関わって来ます。綿密な経過観察やホルモン補充療法が必要となり、当科では小児内分泌専門医との協力体制で対応しております。

下垂体前葉ホルモンの過剰分泌による症状が主体の機能性下垂体腺腫では、薬剤療法と摘出術の利点と欠点を考慮し、患者さんごとに治療方針を決定しますが、ホルモンの分泌異常のない非機能性腺腫では、視覚障害で発症することも多く、発見時には手術が必要であることが多いです。摘出手術は、開頭することなく鼻から頭蓋底部を経由して下垂体に到達するHardyの手術を行います。近年の神経内視鏡を使用した手術手技は、従来の顕微鏡下手術よりも低侵襲で患者さんの負担も少なくなり、また観察可能な部分も増えたことで腫瘍摘出率とホルモン正常化率も向上しております。私たちは全国でもいち早くこの術式に取り組んで来ました。腫瘍の完全摘出が難しい場合は、ガンマナイフ(北日本脳外科病院)などの定位照射治療の追加が長期再発抑制に有効です。胚細胞腫瘍は松果体部や視床下部に好発する腫瘍群の総称で、その組織や悪性度は様々です。治療も放射線治療のみでほぼ治癒するもの、摘出術が重要なもの、摘出術・化学療法・放射線療法を組み合わせなくてはならないものがあり、組織診断が重要となります。私たちの悪性胚細胞腫瘍の治療方針は、特に良い成績を示して来ました。頭蓋咽頭腫は全摘出により治癒が期待されますが、周辺組織との関係で困難な場合も多いです。残存腫瘍の再発もありえますので、定位放射線治療の効果も注目されています。

3. 頭蓋底部腫瘍について

術前評価とシミュレーションの徹底による手術精度の向上

脳実質の下面に隠れる頭蓋底部には、髄膜腫神経鞘腫(聴神経腫瘍など)脊索腫などの腫瘍性病変が発生しますが、いずれも治療の原則は手術摘出です。複雑な形状の頭蓋骨底部と脳実質に囲まれた部分で、主要な脳血管や脳神経も橋渡ししていますので、手術難易度としては私たちの領域において高い部類に入ります。良性の腫瘍が多いので初回手術で全摘出できれば根治となりますが、一方で高度の神経障害を残すような無理な手術は避けなくてはなりません。

可能な限りの腫瘍摘出と神経機能の温存の両立を果たすために、私たちは手術中には、ナビゲーションシステムや高水準の神経モニタリングなど、あらゆる手術支援技術を積極活用しています。しかし、私たちが特に力を入れているのは、術前の徹底した評価と準備です。独自に取り組んで来た最先端3次元画像技術を用いたコンピューターシミュレーションの活用は、腫瘍と神経や血管の手術野での位置関係を明らかにし、術前に頭の中に予想術野をイメージし、実際の手術操作を予習しておけることが利点です。最近はこの画像技術に体感型シミュレーション装置を組み合わせたり、さらに難易度の高い病変の手術では、実際の立体モデルを作成して模擬手術を施行し、手術に準備不足がないように心がけています。

残存腫瘍や再発腫瘍に対しては、ガンマナイフ(北日本脳神経外科病院)による定位放射線治療も有用ですので、患者さんによっては最初から手術とガンマナイフを組み合わせた「集学的治療」の考え方のもとに、合併症を避けた腫瘍治療を行うこともあります。

4. 脳血管障害について

歴史ある血管内治療を中心とした治療戦略

くも膜下出血、脳出血、脳梗塞などの脳卒中に関しては、新潟大学脳神経外科教室の関連病院では一貫した方針で治療が行われています。外科治療の適応となる場合、当院では病態に応じて開頭手術や脳血管内治療を行いますが、特に血管内治療は私たちが国内のパイオニア的な役割を担って来た治療法です。これまでに蓄積した経験を生かし、現在も新しい技術に積極的に取り組んでいます。

脳血管障害の代表疾患である脳動脈瘤は、くも膜下出血を起こす原因となるため、未破裂の状態で発見されても破裂の危険が懸念される場合、開頭によるクリッピング手術や血管内治療によるコイル塞栓術を行う適応となります。コイル塞栓術の方が低侵襲ではありますが、どの治療が適切かは症例や動脈瘤ごとに異なります。私たちの血管内治療は圧倒的な経験数がありますが、一方で治療困難な巨大動脈瘤では大がかりな血管バイパス術と血管内治療の組み合わせで根治をはかるようなこともあり、効果と合併症の観点から検討を重ね、常に最適な治療法の選択が行われるよう努めております。脳動静脈奇形は若年者脳出血の原因となりますが、摘出術、血管内治療(塞栓術)、定位放射線治療(ガンマナイフ)の組み合わせにより、以前は治療困難とされた深部の病変も積極的に治療されるようになりました。脳内の主幹動脈に進行性の塞栓を生じるもやもや病は、稀な疾患ですがやはり若年者の脳出血や脳梗塞の原因となります。予防のためには血行再建の手術を積極的に行う必要があります。他の閉塞性血管病変、特に重度の脳梗塞を来す可能性のある内頚動脈狭窄症では、私たちも早期から血管内治療によるステント留置術に取り組んで来ました。従来の手術治療と比しても合併症も少なく良好な治療成績を示しています。全ての脳血管障害の治療では、血行動態が関与するために周術期管理も重要であり、私たちは蓄積された経験でこれに当たっております。

5. 脊髄・脊椎疾患について

脳治療の経験を生かした脊椎・脊髄の外科治療

手のシビレや足のシビレで頸や腰と診断されると、一般的には整形外科疾患と考えられがちです。脳神経外科の“脳神経”は大脳から脊髄、末梢神経までを指した用語で、脊椎とりわけ脊髄疾患では、当科でもレベルの高い治療を行っています。脊柱管狭窄症椎間板ヘルニアなどの有病率の高い頚椎・腰椎変性疾患は、神経学的診察と画像による責任病変の診断が確実であれば、手術により患者さんの生活水準が大きく向上しうる疾患です。低侵襲手術手技の導入、骨固定用インプラントの開発により臥床期間の短縮と早期社会復帰も可能になって来ています。当科の関連病院では新潟市民病院脳神経外科で以前から本疾患群の手術を積極的に行って来ており、そこで実践を積んだ医師が当院での治療にも取り組んでおります。

さらに脊髄の病変としては脊髄硬膜動静脈瘻などの血管病変や、神経鞘腫血管芽腫星細胞腫といった腫瘍性病変もあります。これらに関する術前診断、手術治療、術後の追加療法や経過観察は、脳血管障害や脳腫瘍の診療で培って来た私たちの技術が同様に発揮される分野でもあります。また脊髄手術で術後の神経機能障害を回避するには欠かせない神経モニタリングも、脳手術により蓄積した経験を応用して私たち独自で行っております。

6. 小児神経外科疾患(水頭症・先天性疾患)について

神経内視鏡を応用した低侵襲な小児脳疾患の治療

脳神経外科診療全般における小児神経疾患の割合は少なくありません。小児に限定した疾患もあれば、成人と同様の疾患もありますが、小児ではどのような疾患においても「脳機能が発達段階にある」ことを念頭において診療に当たる必要があります。水頭症や先天性疾患の手術治療は、私たちの施設でも症例数が多く、治療成績向上のために様々な取り組みを行っています。

水頭症に対する治療法として従来は体内に人工チューブを埋め込むシャント手術しかありませんでしたが、神経内視鏡機器の発達により一部の水頭症には内視鏡手術が有効となって来ました。本邦で2003年に保険適応となる以前から(1997年~)私たちは本方法の有効性を信じ、国内外をリードして治療を進めてきました。シャントを埋め込み既に成長した患者さんにおいても、本方法を行うことで高い確率でシャントチューブの抜去が可能となることも示しました。

先天性疾患の治療としては、二分脊椎頭蓋骨縫合早期癒合症などがあります。二分脊椎には様々な病態がありますが、出産後早期に手術治療が必要なものもあり、当院の周産母子センターと連携し、出産前から産科・小児科(新生児室)との合同治療チームのもと綿密に治療計画を立てて治療にあたっています。手術後の経過の追跡に関しても、近接する新潟県はまぐみ小児療育センター・西新潟中央病院小児科・長岡療育園などの協力を得て、乳児期から学童期・成人に至るまでの永続的な成育医療を実践しています。頭蓋骨縫合早期癒合症は、患者さんの将来の脳の発達と整容上のことも入念に考慮し、当院形成外科と連携し、十分な手術シミュレーションも行った上で治療にあたっております。

7. 機能性疾患について

機能改善を目指した治療と機能温存のための神経モニタリング

機能性疾患というのは、腫瘍性病変や脳血管障害とは異なり生命に関わることは少ないですが、何か症状を軽減するために手術治療を行うものです。従って、手術の適応は患者さんの症状と手術の効果と危険性を秤にかけて決定いたします。

片側顔面の痛みである三叉神経痛、眼や口周囲の痙攣症状である片側顔面痙攣などは、脳血管による脳神経の圧迫で起こる神経の興奮が原因です。開頭手術でこの圧迫を解除することでほとんどの患者さんで根治が得られます。他にも治療の選択肢は様々ありますが、根治ができる治療は手術しかありません。 MRIの3次元合成画像での術前シミュレーションや術中神経モニタリングを活用し、より安全で確実な手術を目指しております。薬物治療に抵抗性の難治性てんかんには、手術で根治できるものがあります。特に側頭葉内側部の病変に起因する側頭葉てんかんでは診断や術式も確立されており、発作治癒率も高く報告されています。てんかん発作は日々の生活を制限する症状でもあり、薬剤治療で効果が不十分であれば、ビデオ脳波モニタリングなどの検査入院を行い、治癒の可能性が見込める段階で手術治療を行います。神経原性疼痛は、脳卒中、脳挫傷、脊髄損傷により感覚伝導路の神経線維が障害された場合に生じる激しい痛みです。薬物で緩和されない難治性の疼痛に外科的な除痛が有効な場合があります。脊髄背側への刺入電極による脊髄後索刺激、頭蓋内留置電極による大脳運動野刺激療法などがあり、いずれも留置電極によるテスト刺激で有効と判定した場合に、刺激装置(メドトロニック社製)ごと皮下に埋め込み、リモコンを使って自身で刺激を調節していただく治療法です。