疾患と治療について
DISEASE

私たちが新潟大学医歯学総合病院において診療に当たっている代表的疾患群と一般的な治療法をご紹介いたします。

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PHILOSOPHY

私たちの
治療に関する考え方

私たちが新潟大学医歯学総合病院において診療に当たっている代表的疾患群と一般的な治療法を、私たちの治療に関する考え方や得意とする治療法も交えながら、ご紹介いたします。
全ての脳疾患の診療において私たちは、診断から治療適応の検討から、実際の手術治療、術後の後療法や経過の追跡まで、患者さんごとに全て一貫した考え方のもとに診療を行わなくては最善の結果を得ることはできないと考えております。最先端画像診断技術、独自の術前シミュレーションシステムによるトレーニング、高レベルの術中神経モニタリングや術中支援機器の利用、そして新潟大学医歯学総合病院の他部門や関連病院との協力体制の構築は、全てがこのような理念のもとに進められています。

脳腫瘍について

根拠に基づく医療に経験を加えた
最善の治療

神経膠腫は脳に原発する脳腫瘍の一種です。一般的な成人の神経膠腫は脳にしみこむように増大します。頭痛・片麻痺・失語・意識障害・痙攣発作などが初期症状となります。脳腫瘍は人口10万人あたり18.3人(熊本県脳腫瘍統計)とされており、その中で神経膠腫は17%とされ、とても稀な病気です。CTやMRIの検査で神経膠腫が疑われたらさらに詳細な検査を進めます。より精密なCT、MRI、カテーテルによる脳血管撮影などの画像検査、髄液検査などを行います。それらの検査を行うことで神経膠腫の悪性度や病理診断を予測します。検査の結果に基づき、治療の必要性や緊急性、またその危険性などを判断し治療を開始します。

治療の第一段階は手術(脳腫瘍摘出術、開頭生検術、定位生検術)です。摘出術の目的は腫瘍容積の減量と組織診断、生検術の目的は組織診断です。神経膠腫は摘出した腫瘍組織を顕微鏡でみて行う診断(病理診断)と腫瘍の遺伝子異常の診断(遺伝子診断)により確定診断がなされます。脳腫瘍摘出術においては、手術用顕微鏡、外視鏡、ナビゲーションシステム、5-アミノレブリン酸のよる術中蛍光診断、術前3Dシミュレーションなどを用いて、精度の高い手術を目指しています。また、脳の手術において重要なことは脳機能の温存です。そのために、運動野や運動神経の経路の近傍の腫瘍に対しては脳表刺激筋電図モニタリングを、言語野や言語に関連する白質線維近傍の腫瘍には、術中に覚醒をしてもらって言語機能を含む高次脳機能検査を行いながらの手術(覚醒下手術)を行っています。また術中光線力学的治療などの新しい治療も取り入れています。手術により得られた組織により病理診断と遺伝子診断を進めます。新潟大学では脳研究所の病理学分野と協力して病理診断、遺伝子診断を行っています。その結果、悪性神経膠腫と診断されればテモゾロミドによる化学療法と放射線治療を行います。状況によってはベバシズマブと併用することもあります。低悪性度神経膠腫と診断された場合でも、患者さんによっては放射線治療や化学療法を行うこともあります。残念ながら神経膠腫は再発する可能性があります。再発した状態をよく見極め、再度の手術、放射線治療、化学療法などの治療を行います。

神経膠腫の病態は患者さんそれぞれ異なります。よくご理解を頂けるようなわかりやすい説明の上で、最善の治療を行うことを目指しています。

脳血管障害について

開頭手術とカテーテル手術の二刀流術者が考える治療戦略

脳動脈瘤
脳動脈瘤は血管の分岐部に発生する血管のコブです。未破裂で発見された動脈瘤は破裂によりくも膜下出血を来たすため、破裂リスクが高いと考えられる症例や動脈瘤により周囲の脳神経の圧迫症状が出ている症例については外科的治療を検討します。外科的治療としては開頭手術によるクリッピング術(図1)と血管内治療(カテーテル治療)によるコイル塞栓術の2つがあり、動脈瘤の部位や大き、周囲血管との位置関係などをもとに治療方法を検討し、経過観察も含めた選択肢について個々の症例で患者さんと相談しながら治療を行っています。近年ではフローダイバーターステントなどの新規医療機器を用いて、より多彩な治療が実現可能となっています。


頚動脈狭窄症
内頚動脈は心臓から脳へ血流の通り道で重要な血管ですが、動脈硬化によりプラークと呼ばれる動脈硬化性病変が形成されることで血管が細くなる病態を頚動脈狭窄症と呼びます。プラークが破綻し頭蓋内の末梢血管を閉塞させることで、脳梗塞や脳梗塞の前兆である一過性脳虚血発作を起こします。狭窄が高度な場合や脳梗塞を来した場合には外科的治療を検討します。以前は全身麻酔による頚動脈内膜剥離術が施行されていましたが、近年ではより低侵襲なカテーテルによる頚動脈ステント留置術を行う事が多くなっています(図2)。症例に応じて治療方法を検討し、治療を行なっています。


もやもや病
頭蓋内で最も太い血管である両側内頚動脈の終末部に進行性に狭窄が生じ、頭蓋内の血流低下が生じる病態です。血流低下を補うために周囲にもやもや血管と呼ばれる異常血管網が発達してくる(図3)ため、もやもや病と名付けられました。小児や若年成人の脳出血や脳梗塞の原因となり得ます。血流が不十分な症例においては頭皮を栄養する浅側頭動脈と脳表の血管を吻合する直接バイパス術と硬膜や側頭筋などを脳表に接着させる間接バイパス術を行います。また,出血例の一部においても再出血予防にバイパス術が有用と報告されています。


脳動静脈奇形
脳動静脈奇形では脳内で動脈(流入動脈)と静脈(流出静脈)が毛細血管を介さず直接つながり、ナイダスと呼ばれる異常な血管の塊を形成します(図4)。血流が非常に豊富で、若年性脳出血の原因となります。大きさや発生部位をもとに治療方針を検討します。手術による摘出術、カテーテル治療による塞栓術、定位放射線治療の3つを組み合わせることで、個々の症例の治療にあたっています。

頭蓋底部腫瘍について

術前評価・シミュレーションの徹底と最新手術支援機器を活用した手術

脳実質の下面に隠れる頭蓋底部には、髄膜腫(図1)、神経鞘腫(聴神経腫瘍など)、頭蓋咽頭腫、脊索腫などの腫瘍性病変が発生しますが、年齢や病変の大きさや局在にもよりますがいずれも治療の原則は手術による摘出です。複雑な形状の頭蓋骨底部と脳実質に囲まれた部分で、主要な脳血管や脳神経も橋渡ししていますので、手術難易度としては私たちの領域において高い部類に入ります。良性の脳腫瘍が多いので初回手術で全摘出できれば根治となりますが、一方で高度の神経障害を残すような無理な手術は避けなくてはなりません。

可能な限りの腫瘍摘出と神経機能の温存の両立を果たすために、私たちは手術中には、ナビゲーションシステムや高水準の神経モニタリングなど、あらゆる手術支援技術(外視鏡・内視鏡併用手術)を積極的に活用(図2)しています。しかし、私たちが特に力を入れてきたのは、術前の徹底した評価と準備です。独自に取り組んで来た3次元画像技術を用いたコンピューターシミュレーションの活用(図2)は、腫瘍と神経や血管の手術野での位置関係を明らかにし、術前に頭の中に予想術野をイメージし、実際の手術操作を予習しておけることが利点です。最近はこの画像技術に体感型シミュレーション装置を組み合わせ、さらに難易度の高い病変の手術では、個々の患者さんに最適な手術アプローチを検討し、念入りに手術準備を行うように心がけています。

残存腫瘍や再発腫瘍に対しては、定位放射線治療も有用ですので、患者さんによっては最初から手術と定位放射線治療を組み合わせた「集学的治療」の考え方のもとに、合併症を避けた腫瘍治療を行うこともあります。再発を繰り返す難治症例では、ゲノムプロファイリングから適した化学療法も必要に応じて検討致します。

機能性疾患について

高い根治率と機能温存を両立した神経機能モニタリング併用手術

機能性疾患というのは、腫瘍性病変や脳血管障害とは異なり生命に関わることは少ないですが、患者さんにしかわからない違和感や苦痛を伴うものです。私たちは長い治療経験をもとに、より確実性の高い治療方針を提案させていただきます。手術の適応については患者さんの症状の程度や我々の行う治療内容をよく理解していただいた上で決定しております。
片側顔面の痛みである三叉神経痛は洗顔や食事も困難となる場合があり、日常生活に大きな支障をきたします。内服治療が奏功する場合もありますが根治治療ではなく痛みが再燃するリスクがあります。片側の眼や口周囲の痙攣症状である片側顔面痙攣は、正常な脳血管による脳神経の圧迫で起こる神経の興奮が原因です。痙攣症状の程度によっては発作的に閉眼してしまい運転などの日常生活に影響する事もあります。いずれの疾患についても開頭手術でこの圧迫を解除する微小血管減圧術で大半の患者さんは根治が得られます。他にも治療の選択肢は様々ありますが、根治が期待できる治療は手術しかありません。

当科では術前に施行したMRIやCTを用いた3次元融合画像での術前シミュレーションを以前から施行しており、本疾患の手術においても用いる事で根治率の高い確実な治療を行なっております。また近年では外視鏡などの最新の手術器具を用いることで、より低侵襲な治療を目指しております。手術においては疾患の根治と同時に正常な神経機能の温存も非常に重要です。この機能温存については、長い治療実績の中で蓄積された神経モニタリングについての経験・技術に加えて、導入している最新の神経モニタリング装置を活用することで、より安全性の高い手術を行なっております。

間脳・下垂体部腫瘍について

神経内視鏡による低侵襲治療とホルモンを考慮した精緻な治療アプローチ

生体の恒常性を担う内分泌ホルモンが産生される間脳・下垂体領域には、下垂体腺腫 (下垂体神経内分泌腫瘍 (PitNET)) をはじめ、胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫、髄膜腫といった多くの腫瘍が発生します。組織も良性から悪性まで幅広く、臨床症状もホルモン関連症状、視覚経路の圧迫症状、髄液循環不全による水頭症、生体維持に関わる視床下部症状など多彩です。当科では、脳神経を守りつつ、内分泌代謝内科や小児科と連携し内分泌ホルモンに最大限配慮して、治療方針を決定しております。

下垂体前葉ホルモンの過剰分泌による症状を認める機能性下垂体腺腫 (先端巨大症、クッシング病など) では、手術と薬物療法を使い分け、患者さんごとにきめ細かく治療方針を決定しています。またホルモンの過剰分泌がない非機能性下垂体腺腫では、視覚障害で発症することも多く、発見時には手術が必要であることが多いことが特徴です。私たちは神経内視鏡を用いて鼻から副鼻腔を経由して下垂体に到達する経鼻経蝶形骨洞手術 (ハーディ手術) による摘出を行っております。日本国内においていち早くこの術式に取り組み、すでに20年以上の実績があります。小児に多い胚細胞腫瘍は松果体部や視床下部に好発する腫瘍群の総称で、その組織や悪性度は様々です。放射線治療のみでほぼ治癒するもの、摘出術が重要なもの、摘出術・化学療法・放射線療法を組み合わせなくてはならないものがあり、組織診断が治療方針決定に重要となります。病理部、小児科、放射線治療科と協力した私たちの悪性胚細胞腫瘍の治療方針は、特に良い成績を示して来ました。頭蓋咽頭腫や髄膜腫は、全摘出による治癒が期待されます。発生部位が頭蓋底の重要構造近傍であるため、開頭術と神経内視鏡による拡大蝶形骨洞手術 (経鼻手術) を使い分け、全摘出をめざした治療を行っています。間脳・下垂体部腫瘍では、脳神経のみならず、内分泌ホルモンや脳血管など重要構造を考慮した結果、完全摘出が難しいと判断した場合にはサイバーナイフ (新潟脳外科病院) やノバリス (新潟大学放射線治療科) などの定位照射治療を併用して再発抑制に努めています。

小児神経外科疾患(水頭症・先天性疾患)について

複数モダリティを駆使した病態解明の追求と最善の治療

脳神経外科診療全般における小児神経疾患の割合は少なくありません。小児に限定した疾患もあれば、成人と同様の疾患もありますが、小児ではどのような疾患においても「脳機能が発達段階にある」ことを念頭において診療に当たる必要があります。水頭症や先天性疾患の手術治療は、私たちの施設でも症例数が多く、治療成績向上のために様々な取り組みを行っています。

水頭症に対しては、体内に人工チューブを埋め込むシャント手術と、一部の水頭症に対しては内視鏡を用いた手術を行っています(図1)。先天性疾患の治療としては、二分脊椎や頭蓋骨縫合早期癒合症などがあります。二分脊椎には様々な病態がありますが、出産後早期に手術治療が必要なものもあり、当院の周産期母子医療センターと連携し、出産前から産科・小児科(新生児室)との合同治療チームのもと綿密に治療計画を立てて治療にあたっています。頭蓋骨縫合早期癒合症は、患者さんの将来の脳の発達と整容面を入念に考慮し、当院形成外科と連携し治療にあたっております。手術前には、3次元融合画像を作成し、お子様の病態に合わせて最善の結果が得られるよう手術内容を検討しています(図2)。

手術後の経過の追跡に関しては、ご自宅近隣の関連施設と協力し、乳児期から学童期・成人に至るまでの成育医療を実践しています。

脊髄・脊椎疾患について

脳治療で培った経験と技術に基づく脊椎・脊髄治療

手のシビレや足のシビレで頸や腰と診断されると、一般的には整形外科疾患と考えられがちです。脳神経外科の“脳神経”は大脳から脊髄、末梢神経までを指した用語で、脊椎とりわけ脊髄疾患では、当科でもレベルの高い治療を行っています。脊髄の病変としては、脊髄硬膜動静脈瘻(図1)などの血管病変や、神経鞘腫(図2)や血管芽腫、星細胞腫といった腫瘍性病変もあります。これらに関する術前診断、手術治療、術後の追加療法や経過観察は、脳血管障害や脳腫瘍の診療で培った私たちの技術が同様に発揮される分野でもあります。また脊髄手術で術後の神経機能障害を回避するには欠かせない神経モニタリングも、脳手術により蓄積した経験を応用して私たち独自で行っております。

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