当教室での取り組み
EFFORT

臨床に端を発したアイデアに基づいた研究や、脳研究所ならではの様々な研究をご紹介します。

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当教室での取り組み

当教室では、大学病院ならではの臨床に端を発したアイデアに基づいた研究や、脳研究所ならではの様々な基礎研究部門と関わりを持った研究など、教室員や大学院生を中心に様々な分野に挑戦しています。当教室で現在行っている研究の一部をご紹介します。

脳腫瘍の化学療法感受性マーカーの同定

診療情報を蓄積し
新たな治療法を探る研究

当科では摘出した脳腫瘍から培養細胞株を樹立して、治療研究を行っています。培養細胞は半永久的に増殖することができるますので、稀な脳腫瘍の貴重な研究モデルとなります。また、患者さんに一度に行える治療は基本的に一つでありますが、培養細胞を用いた研究では多くの治療を試すことができ、その患者さんに最適な治療を見付けることが可能となります。本研究では髄芽腫という小児悪性脳腫瘍に対して、SLFN11(シュラーフェン11)という化学療法感受性マーカーを同定しました。つまり、SLFN11が高く発現している症例では、化学療法が非常に良く効くことが期待されます。また、SLFN11の発現が低く、化学療法が効きにくい症例でもHDAC阻害剤という薬を一緒に使用するとSLFN11の発現が上がり、化学療法の効果を高められることも解りました(図1)。現在、他の脳腫瘍でも同様の解析を行っています。

脳腫瘍のリキッド・バイオプシーの確立

低侵襲に脳腫瘍を診断する未来を目指した研究

近年、世界中で行われている脳腫瘍遺伝子解析の研究より、脳腫瘍の診断に有用な遺伝子異常が解ってまいりました。脳腫瘍患者の髄液には腫瘍本体からこぼれでたDNAがわずかながら存在し、髄液中腫瘍DNAをデジタルドロップレットPCR(ddPCR)という機械を使用して精密に遺伝子解析することで脳腫瘍の診断が可能です。この方法をリキッド(体液)・バイオプシー(生検)と言います。我々のグループは脳腫瘍のリキッド・バイオプシーを国内でいち早く成功しており、多くの論文報告をして参りました。実際に中枢神経系原発悪性リンパ腫、神経膠腫、びまん性正中神経膠腫などの脳腫瘍の診断に用いています(図2)。

フラビン蛍光イメージングを用いたてんかん発作発生機序の解明

てんかん発作はなぜ起こるか?
神経活動に伴う内因性の信号を
光イメージングで捉える。

オートファジー(Autophagy)は広く真核生物の細胞内でおこるタンパク質の代謝機構一つです。栄養飢餓に陥った細胞に顕著に誘導されることが知られ、ミトコンドリアのような細胞内小器官も分解してしまうことが分かっています。ユビキチン−プロテアソーム系が選択的なタンパク質の代謝機構であることに対比すると、オートファジーはよりダイナミックな機構であるといえます。語源からもauto=自、phagy=食ということで、自食作用と考えるとわかりやすく、細胞内でのタンパク質のリサイクルシステムと形容されることもあります。

オートファジーの研究は近年飛躍的に進んでいますが、それに伴い癌・神経変性疾患・感染症などの疾患と関連づけて研究が進められるようになってきました。発がんやがん治療におけるオートファジーの役割が注目されており、癌学会(2009,2010年)でもシンポジウムとしてとりあげられています。

私たちはこれまでに悪性脳腫瘍(グリオーマ)細胞において抗がん剤、放射線治療、ウィルス治療などによりオートファジーが誘導されることを明らかにしてきました。写真下段で、細胞質内で泡沫状に輝いて見えているのがこの現象です。その役割は大きく分けると2つ考えられ、(1)autophagic cell death: オートファジーによって細胞が死ぬこと、(2)protective autophagy: オートファジーによって細胞が守られること、が挙げられます。このメカニズムの解明が、がん治療における新たな治療戦略に結びつくと期待されており、私たちもその研究に取り組んでいます。

(注)フラビン蛍光イメージングでは、神経細胞の活動により変化する自家蛍光シグナルを利用して脳のスライス上の興奮部位を可視化することが可能です。

フラビン蛋白自家蛍光反応を用いた
術中皮質活動イメージングの研究

神経活動を可視化し
飛躍的な手術の安全性の向上と
病態解明を目指す

これまで皮質神経機能局在を術前に評価する目的でfunctional MRI、PETなど様々な検査が進歩してきました。しかし脳神経外科手術を安全に行うためにはミリ単位の正確性を持って機能局在を同定する必要があります。覚醒下手術などの進歩により手術安全性は向上してきておりますが、実際の皮質神経活動を可視化する事は正確な手術をする上で大きな進歩をもたらすと考えられます。
術中神経活動のイメージングは1990年代から試みられております。これまでのイメージングは全て神経活動の結果生じる血流変化を可視化する方法です。この血流応答は比較的大きな反応であるというメリットはありますが、実際の神経活動より広い範囲に生じるため、神経活動領域を過大評価してしまうデメリットがありました。我々の用いるフラビン蛋白自家蛍光反応は神経活動により近い反応であり、これまで動物実験やヒト脳の切片での神経活動可視化に用いられてきました。しかし非常に微細な反応であるため、実験室という整った環境設定が求められ、ノイズの非常に多い手術室という環境では不可能と考えられてきました。我々は現代の手術顕微鏡やCCDカメラ、狭波長の青色光を照射できるレーザー光源などを用いることにより、世界で初めて脳神経外科手術中に生じた皮質神経活動をフラビン蛋白の緑色自家蛍光反応として可視化することに成功しました。今後はより簡便な方法でリアルタイムに神経活動を可視化する研究を進めて行きます。

先進的3次元工学を利用した
脳神経外科手術シミュレーション/トレーニングシステムの開発

全ての手術の安全性・精度の向上と、
次世代脳外科医に向けた
教育・訓練システムの完成を目指して。

脳神経外科手術が複雑な解剖の知識と熟練した技術を要することは言うまでもありません。この安全性と精度を高め、若手脳神経外科医の技術ステップアップも実現するために、私たちは最新の3次元工学を応用した視覚型・体感型シミュレーションシステムの開発に取り組んでいます。
私たちは今まで、3次元画像解析ソフト(Real INTAGE:KGT Inc.)による視覚的な術前画像シミュレーションの活用を報告して来ました。これは様々な神経画像データから引き出した情報(CTから骨、造影CTや血管撮影から動脈や静脈、 MRIから脳/神経や腫瘍など)を統合して一つの3次元データを作成し、画像上での模擬開頭や各段階の予測術野を作成するものでした。

この手法を発展させ、3次元画像データと特殊な操作ツールを対応させることで、手に立体感覚を感じながら開頭したり、脳を圧迫したり、腫瘍を摘出したりといった操作を行えるようになりました。画像解析ソフト(Zed-View:LEXI Inc.)と3次元加工ソフト(FreeForm:DICO Inc.)で実現しています。作成したデータをさらに3次元カラープリント (Z Printer:DICO Inc.)することで、リアルな3次元カラーモデルを作成し、実際の道具で模擬手術も行えるようになりました。
本研究は、患者さんの手術一つ一つを大切にし、その成功へ向けて最大限の努力をする考え方を基盤にしており、向上した手術技量や知識はさらに次の患者さんへとフィードバックされて行きます。

脳内回路の可視化を目指した研究

プロテオミクスをベースにした
脳神経ネットワーク機構の解明

脳神経のネットワークは脳機能を司る大切な構造である一方、後天的かつ異所性に造られる神経回路は、てんかんを引き起こすなど脳機能を損なう原因となります。また近年悪性脳腫瘍についても神経細胞と同じように細胞間ネットワーク形成が治療抵抗性の一つの原因として報告 (Osswald, et al. Nature528 (7580), 2015) され、Cancer Neuroscienceとして神経と腫瘍の接続が腫瘍細胞進展に重要な役割を果たすとして報告されるなど (Pan C, et al. Nature Cell Biology 24, 2022) など,脳内の細胞間ネットワーク形成の解明は,治療法の開発の方向性として今注目された分野の一つです。
私たちは、脳内の細胞間ネットワーク形成の解明の第一歩として、これまでにヒトと齧歯類に共通したタンパク質の活性化 (リン酸化) の観点で研究を進め、成長中の神経回路や損傷後に再生する神経を組織染色で可視化できる抗体を、既にいくつか報告してきました。こうした研究を支える技術として医学部研究推進センターの質量分析装置を活用し、成長中の神経細胞や脳腫瘍におけるタンパク質とその活性化を意味するリン酸化ついてプロテオミクス、リン酸化プロテオミクスを活用しています。現在こうした回路を組織学的に可視化する技術は、今後てんかんや脳腫瘍のネットワーク形成を解明するものとして研究を進めています。

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